【試合内容】
初回、フレーム差を活かして遠い距離からワンツーを打ち出し、形式的なイニシアティブを握ったマクレガー。ファルークはあまり手が出ず、踏み込むたびに飛んでくるリターンをさばくので精一杯。
2回、上体を振りながら素早いステップイン/バックでジャブを打ち出し、距離が詰まったところで強振。下がると良くないとみたか、マクレガーは自ら前進して体格差を活かしたパワーボクシングで対抗。主導権を渡さなかった。ややクリンチの多い試合だが、高度な読み合いが展開されている。
3回、依然として距離が遠いか。またボディワークは確かに優れているが完ぺきに躱しているとも言えず、守勢に回る時間が長いファルーク。ラウンド後半から距離が近くなるとようやく試合をリード。単発のダイナミックな攻撃は迫力があるが、マクレガーの押し相撲で寸断されがち。一方でマクレガーもゼロ距離からのボクシングの組み立てに乏しく、このままだとジリ貧か。
4回、マクレガーの空振りが目立つ。巧みにボディショットを重ねてマクレガーを下がらせるファルークのラウンド。
5回、ここでもファルークのボディショットが立て続けに決まる。下がり気味のマクレガーは手数こそ減っていないがやはり命中率が低い。顔面への被弾も少しずつ目立っている。
6回、なんとかリングを広く使おうとしているマクレガーだが、ファルークを突き離せない。だがリング中央で組み合ってもファルークのボディショットを繰り返し被弾してしまう。時折強引にロープ際に詰める場面を作るが、ファルークは落ち着いてボディワークで捌く。
7回、ファルークがインサイドへ潜り込んだところにアッパーで迎撃するマクレガー。おそらく陣営の指示だっただろうが、これも長続きせず、アングルチェンジであっさり対応されると真っ直ぐ下がらざるを得ない状況に。
8回、ボディが効いてきたか、腕をだらんと下げてしまい顔面への被弾がかなり目立ったマクレガー。しかしファルークの強烈なレバーショットにも耐える根性もなかなかのものである。
9回、マクレガーはとにかく下がっては迎撃して即クリンチを繰り返し、なんとかファルークをリズムに乗せまいと必死である。残り20秒当たりでマクレガーによる盛大なテイクダウンが発生。ファルークからも出血がみられた。
10回、レフェリーの注意からスタートしたこのラウンド、ファルークの体力はなかなか落ちない。クリンチを無理やり引きはがしてさらに連打をまとめるなど、依然として攻勢を続けている。消極的なマクレガーに対しレフェリーがついにホールディングで減点1。すると一層苛烈な打ち合いが展開された。
11回、マクレガーはできる限り下がらずに打ち合う。この期に及んでこのガスの吹かしようは驚くほかない。ファルークのカットもかなりの出血量だ。
12回、非常にクリンチが多く膠着したラウンド。最後の2ラウンドはどちらについてもおかしくなかったが、全体的にはやはりファルークか。マクレガーは多くても取れたラウンドは5つだろう。また減点1も含めると2~3ポイント、僕的には5~7ポイントである。
結果は114-113、113-114、115-112の2-1でリー・マクレガーが全勝をキープし、コモンウェルス及びBBBofC英国バンタム級統一タイトルを獲得した。
【試合数日前に発見したカード。両者の試合映像を観て好試合になると確信した】
どうも、ミラノです。この僻地ブログにはそもそも需要がないので、皆さんが気にも留めないような試合を記事にすることがあります。今回はまさに「誰やそいつ?」という選手同士の試合についてです。
先日グラスゴーで行われたMTK Grobal主催の興行のメインカードであったLee McGregor vs Ukashir Farooq。多分日本語表記するならリー・マクレガーvsウカシール・ファルークとなりますが、僕はこのカードを試合が行われる数日前に発見し、両者の過去の試合映像を観て間違いなく好試合になると予想しました。
特にウカシール・ファルーク、こいつはこれから来るぞと一目で感じるほどの際立つセンスを感じたのです。
【ウカシール・ファルークというボクサー】
ファルークはパキスタン出身ですが、現在はスコットランドのグラスゴーを拠点に活動しているプロボクサーです。
キレッキレのボディワークで相手のパンチを悉く躱すさまからついたあだ名が'Untouchable'(アンタッチャブル)。boxrec上では165cmとバンタム級では標準的な体格ですが、その巧みなディフェンスから瞬く間に相手の懐へ飛び込み、強烈な左右フックで相手をねじ伏せるパワーファイターでもあります。
とりわけボディショットの威力が凄まじく、戦績からはここ数年になって一気にパワーアップしてきたという成長ぶりが見て取れます。
【リー・マクレガーも良い選手だったが、インサイドでは終始上回られていた】
対するリー・マクレガーも、長身且つ長いリーチを持て余さず、よくまとまったボクシングを展開できる選手です。
強靭な脚力でプレッシャーをかけながらのカウンターボクシングも、中間距離以内での打ち合いでも強靭な脚力を活かしてコンパクトにフックを振り抜くこともできる選手です。どことなく同郷のジョシュ・テイラーと似通うところがありますね。
しかし、ファルーク戦では思うように持ち味を活かしきれません。いかんせんファルークのディフェンスを前にリズムに乗れず、真っ直ぐ下がってはボディを何度も被弾してしまいます。
相対的に腰高な選手がインファイトで対応するにはいつも以上に低い姿勢を作らなければならず、そこがジョシュ・テイラーとの差であるように感じます。
試合はスプリットの判定でマクレガーによる薄氷の勝利となりましたが、今回の試合はお互いが今後当分負けることのない逸材であることを証明したと思います。
マクレガーもテイラーばりにインファイトができるようになれば、間違いなく世界タイトルを獲得できる選手です。何せ耐久力がバンタム級のそれじゃない。
そして彼以上に、僕はファルークに期待しているのです。今回は判定に泣かされましたが、完ぺきなウェイトの乗せ方を確立しているあの左右ボディフックに耐えられる選手はそうそういないでしょうし、ディフェンス能力の高さというもう一つの勝利のカギを握っているファルークなら間違いなく世界を獲れます。
【ブリティッシュ・ボクシングから見習うべきもの】
ここからは半分ネタです。
僕は一部の選手が展開するブリティッシュ・ボクシングが大好きです。インサイドにおけるプッシュダウンやホールディングさえ使いこなす戦いぶり、観衆も一体となって展開される心理戦。「それはボクシングなのか?」というところまで勝負に持ち込んでくる、勝ちに対する凄まじい意地汚さがたまりません。
それは気合や根性に上乗せされた狡猾さです。彼らは常に沸騰するほどの興奮の中、よく頭を使って戦っているのです。
ジョシュ・テイラーがレジス・プログレイスに勝てたのはなぜでしょう?
ジョシュ・ウォーリントンがセルビー、フランプトン、ガラハッドと次々強豪を下したのはなぜでしょう?
相手の良さを打ち消し、その中で最大限自分の見せ場を作る努力とは、試合ごとに論理的なチューンアップを行うことなのです。
彼らにとって手段を選ばないというのは、付け焼刃の小技を並べて立ち向かうという意味ではありません。勝つために使えるものをかき集めた上で、それら全てを全力で鍛え上げ、磨き上げることなのです。
そして何より、観客が圧倒的な熱量を持ち込むことなのです。
ホームアドバンテージに関しては、うん、その。僕からはノーコメントです()
初回、フレーム差を活かして遠い距離からワンツーを打ち出し、形式的なイニシアティブを握ったマクレガー。ファルークはあまり手が出ず、踏み込むたびに飛んでくるリターンをさばくので精一杯。
2回、上体を振りながら素早いステップイン/バックでジャブを打ち出し、距離が詰まったところで強振。下がると良くないとみたか、マクレガーは自ら前進して体格差を活かしたパワーボクシングで対抗。主導権を渡さなかった。ややクリンチの多い試合だが、高度な読み合いが展開されている。
3回、依然として距離が遠いか。またボディワークは確かに優れているが完ぺきに躱しているとも言えず、守勢に回る時間が長いファルーク。ラウンド後半から距離が近くなるとようやく試合をリード。単発のダイナミックな攻撃は迫力があるが、マクレガーの押し相撲で寸断されがち。一方でマクレガーもゼロ距離からのボクシングの組み立てに乏しく、このままだとジリ貧か。
4回、マクレガーの空振りが目立つ。巧みにボディショットを重ねてマクレガーを下がらせるファルークのラウンド。
5回、ここでもファルークのボディショットが立て続けに決まる。下がり気味のマクレガーは手数こそ減っていないがやはり命中率が低い。顔面への被弾も少しずつ目立っている。
6回、なんとかリングを広く使おうとしているマクレガーだが、ファルークを突き離せない。だがリング中央で組み合ってもファルークのボディショットを繰り返し被弾してしまう。時折強引にロープ際に詰める場面を作るが、ファルークは落ち着いてボディワークで捌く。
7回、ファルークがインサイドへ潜り込んだところにアッパーで迎撃するマクレガー。おそらく陣営の指示だっただろうが、これも長続きせず、アングルチェンジであっさり対応されると真っ直ぐ下がらざるを得ない状況に。
8回、ボディが効いてきたか、腕をだらんと下げてしまい顔面への被弾がかなり目立ったマクレガー。しかしファルークの強烈なレバーショットにも耐える根性もなかなかのものである。
9回、マクレガーはとにかく下がっては迎撃して即クリンチを繰り返し、なんとかファルークをリズムに乗せまいと必死である。残り20秒当たりでマクレガーによる盛大なテイクダウンが発生。ファルークからも出血がみられた。
10回、レフェリーの注意からスタートしたこのラウンド、ファルークの体力はなかなか落ちない。クリンチを無理やり引きはがしてさらに連打をまとめるなど、依然として攻勢を続けている。消極的なマクレガーに対しレフェリーがついにホールディングで減点1。すると一層苛烈な打ち合いが展開された。
11回、マクレガーはできる限り下がらずに打ち合う。この期に及んでこのガスの吹かしようは驚くほかない。ファルークのカットもかなりの出血量だ。
12回、非常にクリンチが多く膠着したラウンド。最後の2ラウンドはどちらについてもおかしくなかったが、全体的にはやはりファルークか。マクレガーは多くても取れたラウンドは5つだろう。また減点1も含めると2~3ポイント、僕的には5~7ポイントである。
結果は114-113、113-114、115-112の2-1でリー・マクレガーが全勝をキープし、コモンウェルス及びBBBofC英国バンタム級統一タイトルを獲得した。
【試合数日前に発見したカード。両者の試合映像を観て好試合になると確信した】
どうも、ミラノです。この僻地ブログにはそもそも需要がないので、皆さんが気にも留めないような試合を記事にすることがあります。今回はまさに「誰やそいつ?」という選手同士の試合についてです。
先日グラスゴーで行われたMTK Grobal主催の興行のメインカードであったLee McGregor vs Ukashir Farooq。多分日本語表記するならリー・マクレガーvsウカシール・ファルークとなりますが、僕はこのカードを試合が行われる数日前に発見し、両者の過去の試合映像を観て間違いなく好試合になると予想しました。
特にウカシール・ファルーク、こいつはこれから来るぞと一目で感じるほどの際立つセンスを感じたのです。
【ウカシール・ファルークというボクサー】
ファルークはパキスタン出身ですが、現在はスコットランドのグラスゴーを拠点に活動しているプロボクサーです。
キレッキレのボディワークで相手のパンチを悉く躱すさまからついたあだ名が'Untouchable'(アンタッチャブル)。boxrec上では165cmとバンタム級では標準的な体格ですが、その巧みなディフェンスから瞬く間に相手の懐へ飛び込み、強烈な左右フックで相手をねじ伏せるパワーファイターでもあります。
とりわけボディショットの威力が凄まじく、戦績からはここ数年になって一気にパワーアップしてきたという成長ぶりが見て取れます。
【リー・マクレガーも良い選手だったが、インサイドでは終始上回られていた】
対するリー・マクレガーも、長身且つ長いリーチを持て余さず、よくまとまったボクシングを展開できる選手です。
強靭な脚力でプレッシャーをかけながらのカウンターボクシングも、中間距離以内での打ち合いでも強靭な脚力を活かしてコンパクトにフックを振り抜くこともできる選手です。どことなく同郷のジョシュ・テイラーと似通うところがありますね。
しかし、ファルーク戦では思うように持ち味を活かしきれません。いかんせんファルークのディフェンスを前にリズムに乗れず、真っ直ぐ下がってはボディを何度も被弾してしまいます。
相対的に腰高な選手がインファイトで対応するにはいつも以上に低い姿勢を作らなければならず、そこがジョシュ・テイラーとの差であるように感じます。
試合はスプリットの判定でマクレガーによる薄氷の勝利となりましたが、今回の試合はお互いが今後当分負けることのない逸材であることを証明したと思います。
マクレガーもテイラーばりにインファイトができるようになれば、間違いなく世界タイトルを獲得できる選手です。何せ耐久力がバンタム級のそれじゃない。
そして彼以上に、僕はファルークに期待しているのです。今回は判定に泣かされましたが、完ぺきなウェイトの乗せ方を確立しているあの左右ボディフックに耐えられる選手はそうそういないでしょうし、ディフェンス能力の高さというもう一つの勝利のカギを握っているファルークなら間違いなく世界を獲れます。
【ブリティッシュ・ボクシングから見習うべきもの】
ここからは半分ネタです。
僕は一部の選手が展開するブリティッシュ・ボクシングが大好きです。インサイドにおけるプッシュダウンやホールディングさえ使いこなす戦いぶり、観衆も一体となって展開される心理戦。「それはボクシングなのか?」というところまで勝負に持ち込んでくる、勝ちに対する凄まじい意地汚さがたまりません。
それは気合や根性に上乗せされた狡猾さです。彼らは常に沸騰するほどの興奮の中、よく頭を使って戦っているのです。
ジョシュ・テイラーがレジス・プログレイスに勝てたのはなぜでしょう?
ジョシュ・ウォーリントンがセルビー、フランプトン、ガラハッドと次々強豪を下したのはなぜでしょう?
相手の良さを打ち消し、その中で最大限自分の見せ場を作る努力とは、試合ごとに論理的なチューンアップを行うことなのです。
彼らにとって手段を選ばないというのは、付け焼刃の小技を並べて立ち向かうという意味ではありません。勝つために使えるものをかき集めた上で、それら全てを全力で鍛え上げ、磨き上げることなのです。
そして何より、観客が圧倒的な熱量を持ち込むことなのです。
ホームアドバンテージに関しては、うん、その。僕からはノーコメントです()