BOKSADO備忘録

管理人(白井ミラノ)によるメモ書き置き場。

2021年12月

 こんにちは、ミラノです。

 はじめに、今年もお疲れさまでした。
 年末に更新ラッシュを仕掛けましたが、あれぐらいの内容なら結構いける気がしてきました。やるとは言ってません。



 壮絶な年でした。いろいろありました。いろいろありすぎてうまく思い出せません。
 今年は何だったのでしょうか。

 僕の中で、ボクシングに対する見方が大きく変わったように思います。高校1年の冬、KOシーン集を眺めまくっていたあの頃、僕は恐らくその瞬間を芸術的で破壊的なものとして見惚れているだけでした。

 やがてKOまでのプロセス、相手を置き去りにする技術などを知る中で、ボクシングが好きな自分を認識し、そのまま突っ走ってきたわけですが。

 人を殴るとはどういうことでしょうか。ボクシングとケンカは違うとどんなに言い張っても、相手を傷つけることに変わりはない。

 僕は争いなんて嫌いです。人の醜い部分が見える諍いなんて嫌いです。
 なのになぜ僕は好き好んでボクシングを観ているのでしょう?時にボッコボコに顔が腫れ、ざっくりと傷が開き、血まみれになるさまを、どうして目を逸らさず観ているのでしょう?

 ボクシングはスポーツです。勝利を渇望する者同士の一騎打ちです(例外はありますが)。
 人々はボクサーを応援し、熱狂します。僕だってそうです。

 しかし散々ボクシングにまつわる話を追っていれば、その暗い側面に気づかずにはいられません。

 ボロボロになっても頑張るボクサーを観て胸打たれるのは自然な感情だと思います。
 同時に、後遺症や死の問題は切っても切れないものです。僕が人としてボクシングを観るためには、これらについて考えずにはいられません。

 「リングの上で死ねるなら本望」。「古傷は戦士の名誉」。
 そういう価値観があってもいいとは思いますし、そう言えるだけの覚悟があってボクシングに打ち込める人もいるはずです。

 ならば、外野からそれを観させてもらっている僕は、彼らが無事に生き残り、かの世界から身を引いても幸せに生きていく未来に期待しなければなりません。そのための問題提起をしなければなりません。



 ボクシングは安易な気持ちで取り組んでいいスポーツではありません。ですが同時に、僕自身はもっとたくさんの人々に、ボクシングについて親しみを持ってほしいと願っています。
 そのための4スタンス理論を用いた独自研究を行い、その成果をブログやデータベースに載せています。

 4スタンス理論自体は少々難解であり、自分の体でアウトプット出来るようになるまで時間を要するものだと思います。
 しかしより安全に、より快適にボクシングをするためのアプローチ方法の一つとして、4スタンス理論から入ってみるのは有効なのではないか。そういう信念のもと、活動しております。

 ボクシングという競技が多角的な視点から理解されることを願ってやみません。



 かくしてブログやTwitterで情報発信をする匿名のアカウントは、どれほど無力でしょうか。
 無力だと自覚したとて、果たしてそれが歩みを止めるだけの理由と成りうるでしょうか。

 ボクシングに関わることがどういうことなのか。
 僕なりの考えを、来年も述べていけたらいいなと思います。

 最後に、僕の敬愛するバンド、amazarashiの歌詞を一部引用して締めたいと思います。
 毎年恒例になる気がします。

 それでは、よいお年をお迎えください。



  境界線の向こう側で 足掻く人々 嘆く人々 目にしながら
  沈黙することを選択するならば 僕らは共犯者 人たりえたのか

  存在価値はいつだって自分の中 個々に宿る銘々の色
  胸に抱いたなら 微かに灯る火が 最後の星空と どこか似ていたんだ

  amazarashi『境界線』より

 こんにちは、ミラノです。

 村田さんは「アマにもプロに負けないところはある」と言って憚らない。
 僕は大いに賛同します。特に今年の東京五輪ボクシング競技はマジで面白かった。「素人のボクシング」とは一体何なのか、考えさせられてしまいます←

 さて、今回は遥か昔、そんなアマチュアボクシングで、しかも東京五輪で頂点に輝いた男子ボクサーを紹介しましょう。


【桜井孝雄】

 これまた白黒のハイライト映像ですが、現在のボクシングでも充分に通用してしまうのではないでしょうか?
 理想的なサウスポーといっていいでしょう。

 そんな桜井孝雄は典型的なB2タイプです。
 軽やかなフットワーク、真っ直ぐ伸びる切れ味たっぷりのジャブ、バックステップからの左ボディ、右チェックフックから相手が下がるところを狙っての左ストレート。
 嗚呼、これぞボクシング!!

 2021年現在におけるB2サウスポーのハイエンドはクロフォードやロマチェンコなどが挙げられるわけですが、そもそもB2サウスポーって人種や国を問わず多い印象です。

 足底-股関節-首付け根を軸ポイントとして姿勢をつくり、
体前面を主動面とするB2のアクションは、サウスポーに求められる技術と親和性が高いとみられます。
 例えばフットワークは弧を描く傾向が強く、相手(オーソドックス)の外側へ回り込みやすい。右フックはBタイプらしくワイドに、そして脊椎横突起を軸として体幹を回すためB1以上にロングで繰り出すことが出来、踏み込む相手をいなしたり、距離を保ちながらカウンターを決めるのに最適です。

 相手にとっては、逃げ水を追わされているような気分でしょう。で、不用意に近づくと左ストレートが待っている。

 あれ?B2サウスポー最強じゃね?と思うかもしれません。
 最強になれるかは、その選手が如何に自分を理解し、いかに環境に適応できるかにかかっています。
 B2サウスポーは、自分の才覚に気づく条件が少し緩いだけなのかもしれません。これはリングの上で展開される人間の心理の傾向とも、それなりに関係がありそうです。

こんにちは、ミラノです。

「世代じゃないけど」第二弾、今回も日本の選手です。というかたぶん次回も日本人です。

世の中、尋常じゃない体力を持つ人ってたまにいますよね。いつまでもパンチを打っているのに全く疲れる気配がない人。

今回はそういうボクサーです。



【ファイティング原田】


 兎にも角にも前へ、前へ。常に前傾姿勢、一度飛び込んだら止まらない。

 そんなファイティング原田はA1タイプとしての自身の特徴を存分に活かしているといえるでしょう。

 足底(つま先内側寄り)、膝、みぞおち前面を軸ポイントとしてつくられる彼の姿勢。皆さまのお体で試していただければ分かると思いますが、この基本的な姿勢は前傾を取ることがほとんどです。
 
 そしてそこから放たれるパンチは、一見手打ちに見えますがたいへん重みのある一発に仕上がっています。
 YouTubeに挙げた井上尚弥vsノニト・ドネア分析動画でも紹介しましたが、Aタイプは右を打つ時必ず左脚を、左を打つ時は必ず右脚を軸に用います。
 ファイティング原田のファイトスタイルを象徴する猛烈な左右連打も、軸を交互に使い分ける(=いつでも軸の入れ替えが可能なように前傾姿勢を保ち続ける)ことによって完成されているのです。

 Bタイプが体幹をなぞる様に軸が通るのに対し、Aタイプは体幹に対して斜めに軸が通ります。
A1RightHand
 これはA1タイプによる右ストレートの打法ですが、一見するとつんのめりそうですよね。そうです、これはA1の特徴でもあります。
 打ち終わりの隙を埋めるには、相手に密着するしかありません。A1は幸い前傾姿勢からコンパクトな連打を繰り出しやすい構造になっているため、ファイティング原田はブルファイターとして活躍することが出来たというわけです。

 往年の名ボクサーは、ただ単に根性が凄まじいだけではありません。ファイティング原田もまた、自分の体の使い方をよく理解していたファイターだったのです。

 今でも充分参考にできる選手だと思います。

 こんにちは、ミラノです。

 突然ですが、大昔のボクシングに興味がある方ってどれくらいいらっしゃるでしょうか。

 僕はそういうの大好きです。今とは違った趣があります。背景を知ると、たとい白黒でカックカクだとしても映像の迫力が半端なくなります。

 ですがこのブログ、あくまで4スタンス理論から見たボクシングを紹介するコンセプトなんですよね。

 ということで今回は1950年代に活躍した、とある古のジャパニーズファイターを分析してみましょう。


【白井義男】


 言わずと知れた日本人最初のプロボクシング世界王者ですね。身長が高い方が白井さんです。

 彼はおそらくB2タイプです。
 股関節の高さがほとんど常に固定されていて、これは典型的なBタイプの特徴であると思います。

 体型について、肩に注目していただきたいのですが、だらんとした形状ですよね。これはクロスタイプに多く見られる特徴です。ちなみにパラレルタイプだと怒り肩になりやすいです。
 クロスタイプは身体前面を主動面とするため、胸側の筋肉に引っ張られてこのような形になるんじゃないかなぁ、などと推測しています。

 ボクシングに注目しましょう。
 まずはディフェンス。ガードは低いですが頭がよく動いていて的を絞りにくいですね。
 ダッキングにおいては、右拳を首元に添えて軸を安定させつつ、右股関節から左肩にかけて体幹を収縮させることで素早い動作を実現させています。右拳はパリングに用いることも出来ます。

 ジャブがたいへんよく伸びますが、この時も蹴り出すときに右拳は首元に添えられ、軸から股関節が逸脱することによって発生するバランスの崩壊を防いでいます。

 パンチのほとんどが強打です。しっかり腰が入っていて重みを感じますね。
 2度目のダウンを奪ったコンビネーション(7:05~)が参考になると思いますが、左アッパーを当てることによって相手の頭が流れる方向を予測し、回り込んで自分の右アッパーが最も打ちやすい方向へ相手の頭がおかれるように調節しているのが分かります。
 自分の「打点」を熟知していますね。今でもこの技術を使うB2の選手、たまに見ます。代表例はロマチェンコです。
 クロスタイプは脊椎横突起が体幹を動かす基点となるため、動作するたびに横滑りが起きます。左右を強振する場合、適宜ポジションを変えて調節する必要があるのです。

 かつて世界の頂点に輝いた技術、今でも充分通用しちゃうんですねえ。昔は昔?ノンノンノンノン。
 4スタンス理論は今と昔のボクシングを繋ぐ重要なファクターなのです。

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