BOKSADO備忘録

管理人(白井ミラノ)によるメモ書き置き場。

2023年10月

ロマチェンコといえば全方位でマスタークラスのイメージが強いが、ことライト級に上げてからは顔面を腫らすようになった。

階級アップに伴うフィジカル不足という側面もあるにはあるのだろう。 
しかし、それだけで片付けてよいのだろうか。
ちょっとここに僕の思う、その原因とやらを書き留めておく。

 
【バックステップの多用】

 ロマチェンコといえば逃げ水のようなフットワークである。アマチュア時代から培ってきたヒットアンドアウェイの名残といえるだろう。
ボクシングは攻め続ける競技ではなく、様々なディフェンス技術を駆使していかに相手の攻撃を寸断し、リズムに乗らせないかが重要になる。
アマチュアルール、つまり3分3ラウンド(北京五輪では2分4ラウンド)という短い試合時間で常にイニシアチブを握るにあたっては、 絶えず足を使い続けるという戦略が功を奏しやすい傾向にあると思う。
東京五輪2020で代表例に上げるなら、対戦相手をことごとくRSCに追い込んだイマム・ハタエフを徹底したアウトボックスで完封し切ったベンジャミン・ウィテカーだ。
ああいったボクシングは、プロでは確実に足がつく。長丁場を闘う以上、あらゆるボクサーは省エネを意識せざるを得なくなるのだ。 

もちろんロマチェンコも、プロ転向後は左右の大きなフットワークを抑え、睨み合いの時間を増やすなどして、下手な消耗をしないよう心がけるようになった。

しかしそれでもなお、彼の踏み込みは時として直線的である。その原因となっているのが、バックステップではないだろうか。

直線的な動きを促進してしまうリスクがあるバックステップだが、2023年現在においてもその技術が廃れる気配はない。
適切に使うことで必要不可欠な技術へと昇華するわけだ。

では、ロマチェンコのそれは有効に機能しているだろうか?
サウスポーであることも影響してか、バックステップから攻撃を繰り出すことは少ない。どんなに仕切りに頭を振っていようが、距離があるうちは止まっているも同然である。
リーチが短いサウスポーというハンディキャップによるものと考えられなくもない。

【上体が起きている】

ロマチェンコといえば鮮やかなインサイドでの攻防だが、コテコテのファイターというわけではない。先述した通り、ロマチェンコはフットワーカーでもある。
足を使う選手は、その基本的な姿勢においてアップライトの傾向が強まる。足元が常に動作している、つまり不安定であるわけだから、上半身はスタビライザーの機能を務めなければならない。
故に、ロマチェンコの基本的な姿勢はアップライトなのである。

体格面で不利な階級に身を置きながら、試合のペースを掴むための武器は「近づいてコンビネーションをまとめる」というもの。パッキャオのようにカウンターを狙える質のものではない。
なので、正面を外しにくいアップライトスタイルがボクシングの根本であるというのは、それだけで被弾をいたずらに増やす要素なのである。



これらの問題点に対してロマチェンコは、レスリング技術と印象深い高速コンビネーションによって相殺を試みてきたと言えるだろう。

しかし、結果としてはプロキャリアにおいてここまで3敗を喫している。
サリド戦のように不本意な状況で苦杯をなめるという特殊ケースを含んでいるとはいえ、アマチュアで396勝1敗という圧倒的な成績を収めた名選手には、どうにも相応しくない結果である。

そこには確かに原因があるが、それについて他の選手を引き合いに出すのは忍びない。
こういうのはあまりにも千差万別であるし、時の運というものさえ絡んでくる。

しかしあくまで原因の一つとして、本記事の内容も一考に値するのではないかと思う。 

利き足には、体重をかけやすい。




これはオーソドックスのクロフォード。
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これはサウスポーのクロフォード。
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これだけで違いを感じた人、なかなかに身体的感覚が優れているかもしれない。
 
オーソドックスで構える時、奥足から首元まで一直線に伸び、左足はそれらを倒木を支えるように受け止める。

サウスポーで構える時、左足で少し踏ん張り、両拳は右足から胸元にかけて一直線になるように並べる。


クロフォードはスイッチができる類まれなボクサーだが、それでも彼の中にはドミナントとなる部位が存在していることを、これらの画像は端的に表しているといえるのではないだろうか。


…筆者はクロフォードについて、利き足左と考えている。 

カネロやライアン君を利き足右だと思っていけど、どうも違うらしい。
彼らがB2であることはほぼ間違いないと思うのだけど、左フックの打ち方についてはおおよそ利き足奥の選手に繰り出せるものではなさそうだ。

【レバーブローから】

サンダース戦で繰り出したいきなりの左ボディには驚かされたのをよく覚えている。これほど外旋回の軌道で、サンダースの右ひじを回り込むように打つのは利き足奥にはちと厳しいと感じる。
もちろん個人差はあると思うが、利き足奥のレバーブローというのは、もう少し内側から抉るように打ち込むものではないだろうか。

例えばベテルビエフのそれのように。

【基本的な構えから】
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おそらくB2という点で共通しているであろうカネロとベテルビエフには、構えの点で明確に違いがある。
奥足に体重を乗せ、ガードを八の字に掲げるベテルビエフに対し、カネロは両肘の真下に左脚が挟み込まれるように構える。

 以前、「はたくか、突き立てるか」という記事を書いたのだが、あれは一旦忘れてほしい()。ただ、選手によって拳の角度が変化するのは紛れもない事実だし、それがなんらかの法則に従って成立している可能性は否定できない。

【利き目についての考察】
 

ビボルもB2タイプと思われる選手だが、これまたカネロやベテルビエフとは毛色の違うボクサーファイターだ。 
動作の度に緩やかなサークリングを行い、踏み込みつつも一定の距離を保ちながら左右を浴びせる。

リングを広く使うという観点で、サークリングを駆使するのはジムで必ず教わると思うのだが、サークリングの展開の仕方にはこれまた個人差がある。
ビボルのようにジリジリと回る選手もいれば、それこそベテルビエフのように距離を取るべく左右へ大きく動く時にしか用いない選手もいる。ジャブを打つ時だけサークリングする、なんて選手も。

これらは少なくとも利き足と利き目に影響を受けているのではないかと、最近は考えている。

 こちらのサイトを参照してほしいのだが、人は利き目を基準に物体や景色を見ているという。
そのため、利き目の視界の中心に見たいものを合わせる傾向があるようだ(筆者は顕著に左目だった)。

ほんの数センチ、されど数センチ。人の視界の基準が利き目によって左右されるならば、それは全身運動にも確かな影響を与えるのではないか。

これが4スタンス理論上同じタイプであるはずのボクサーの動きに、バリエーションを持たせている。

という推察の段階に、今僕はいる。
また進展あれば、ここに報告します。 

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