こんにちは、ミラノです。

 先日行われた井上拓真vsノルディン・ウーバーリ。拓真は持ち味をいくつかの場面で見せたものの、全体的にペースを握ることができず、逆にウーバーリからダウンを奪われ判定0-3で敗れてしまいました。

 Twitterでの皆さんのご感想を伺う限り、「こんなもんじゃない」「化ける可能性があることを見せた」という意見も少なからず見受けられ、僕も同じような気持ちであります。

 しかし、プロで13戦をこなして今回の大舞台を迎えても尚、その灯火は大火へとなかなか変貌を遂げられていません。特に戦績からも見て取れる決定力のなさからは、「拓真にはパンチ力がない」という評価が現れても仕方がないでしょう。

 しかしです。これまで拓真が収めた3つのKO勝利は、相手陣営のギブアップではなく、全て彼の拳による決着であることを忘れてはいけません。何か特定の条件がそろった時、彼は恐るべき攻撃力を発揮するのです。

 今回はその根拠をウーバーリ戦の分析及び4スタンス理論を用いて説明していきたいと思います。如何せんろくに運動したこともない素人の意見ですが、面白半分に斜め読みしていただけるだけでも幸いです。

 以下、映像を観てリアルタイムで書き殴った試合展開の記録です。

【拓真vsウーバーリ】

初回、拓真のジャブが良い。ウーバーリは踏み込んでの左で距離感を図る。左回りの立ち上がり。

2回、拓真は下がりながらの右のリターンでポイントアウトを図るが、ウーバーリは脅威と感じていないよう。積極的に左を伸ばして理詰めを遂行する。お互い左回りで、奥側の拳を打ちたい。ウーバーリは右ボディを混ぜながら拓真にまっすぐ下がらせてパンチをまとめる。

3回、拓真はまっすぐ下がらされている。出入りに合わせた右アッパーや左フックで簡単に踏み込ませないよう工夫するが、イニシアティブを握れているとはいえない。左ボディから右フックのコンビネーションをそして低い姿勢からの左を被弾した。

4回、ウーバーリは右足のポジションもわずかに外側を常にキープしている。右のタイミングを読まれた拓真、ウーバーリの鮮やかな左でダウン。ややフラッシュだったか。

ここでスコアカード発表、本人はリードされていることに動揺したとコメントしているが、そう思っても仕方がないかもしれないと感じた。

5回、コーナーに下がったところで左ボディが一発決まる。少しおとなしくなったウーバーリ、しかし拓真は積極的に出られない。重心が高く、前に出る力がない。下がってロープ際にもたれることでバランスが崩れるのを防ぐことができるのである程度体重を乗せてパンチを打ち込めていたが。

6回、距離が遠いため拓真のパンチが当たらない。よくディフェンスをしているものの、それはウーバーリも同じ。膠着したラウンド。

7回、ウーバーリはコンビネーションや左ボディストレートで巧みに拓真を下がらせる。右を出す機会をうかがっているが、逆にウーバーリに踏み込まれる展開が続く。

8回、ロープ際から脱出してパンチをまとめる機会があったが、バックギアを意識しすぎたか、好打することはできず。相変わらずリング中央では腰が高く、前に誰らない。ロープ際に詰まる寸前での被弾が目立つ。一発だけ姿勢の整った左フックがみられた。

9回、左ボディを何度か好打。ウーバーリが下がりだすと、少しだけ攻勢を強めた。

10回、右の姿勢がやや改善されたが、依然として前のめりになりがちなのでそこから攻撃をまとめられない。

11回、なかなか積極的にパンチを出せない、まとめられない。歯がゆい展開が続く。ボディの攻撃が少ないのは、ウーバーリのガードが下がっているゆえか。

12回、打ち合いの中で左フックがクリーンヒット、頷きながら下がるウーバーリを追いかけるが、捕まえきれず。打ち返してきたウーバーリもさすが。

試合終了。僕的には117-110ウーバーリあたりが妥当かと。


【拓真が4スタンス理論でいうB1タイプであるといえる理由】

 早速4スタンス理論を使わせていただきますが、B1タイプで強力なストレートを持つ実力者は過去にも現在にも何名かいらっしゃいます。

 その中でも格別の破壊力を誇るのが、デオンテイ・ワイルダー、アドニス・スティーブンソン、ギレルモ・リゴンドウ、そして山中慎介です。

 彼らはリーチが長いので、半身に構えてリードブローを伸ばすだけで距離を作ることができます。そして鋭い踏み込みからのストレート、或いは相手に踏み込ませてのカウンターをぶち当て、KOの山を築いてきたわけです。

 しかし拓真の身体は胴が長くリーチが短いという、どちらかといえばファイタースタイルに傾倒すべき特徴を持っています。彼らと違って拓真は距離を潰すファイターでなければなりません。


 ここで今回のウーバーリ戦における構えと戦術を検証してみましょう。

 踵をつけ、上体を左斜め前に傾けるのが彼の基本的な構えです。そして、ジャブで距離を取りつつ遠い距離で右ストレートを点火、踏み込まれたらスパッと右ストレートを下がりながら伸ばすのが彼の基本的な戦術です。ついでに彼は右を振るのが好みなのか、相手が出てくるのを待ってジャブが出なくなり、真っ直ぐ下がってしまう悪癖があります。

 いかがでしょう。これだけで拓真には構え・戦術共に向いていないことがわかりますでしょうか。

 リーチの短い選手がワイルダーのように距離を取って戦うこと自体がそもそも無理があるというのに、奥側にある拳でぶちのめしたいがために頑張ってストレートを伸ばしたところで、現状の頭が前に出る構えではB1タイプ的に重心が前へ傾き過ぎてしまい、バランスをキープすることができないゆえ強く振り抜けませんし、そこからの追撃も困難なわけです。

 しかし、拓真はウーバーリ戦でもその隠されたパンチ力を確かに発揮しています。最終回に決めた左フックのカウンターは腰を落として右足を強く後ろへ蹴り出しながら両肩を入れ替えるように打ち出し、見事ウーバーリにたたらを踏ませました。

 また、過去に拓真がダウンを奪った試合のうち、フローイラン・サルダール戦は大いに参考になることでしょう。8ラウンドにアッパーを見せて体を起こさせつつ、自らは左にポジションをとって頭より右側へ振るった右ストレートでダウンを奪いましたが、上体を倒さず打ち抜いた直後に右脚が前に出た点も含め、B1タイプの特性がよく表れていたと思います。内山さんの右とソックリです。距離の作り方、ポジションの取り方次第ではリーチの短い選手もストレートで倒すことはできるのです。


【KODLABへ行くか、行かないか】

 確かに拓真には相手を効かせられるパンチを持っているのです。というか、僕個人の意見では倒せるパンチを打つことができない選手など一人もいません。パンチが弱いから当て逃げに徹するというのは、正直僕は感心しないのです。それは4スタンス理論に沿ったボクシングができていないだけだと言い張りたいです←

 先ほども書きましたが、拓真にはリーチがありません。それだけでなく、ナオヤ・イノウエのフィードバックタイプとしてファイトスタイルが強制されている影響か、その無理がある戦い方を敢行しているために肩に力が入り、パンチの伸びの悪さに拍車をかけているのです。

 内山高志という我らが誇るB1タイプの日本人ボクサーの代表がジムを開設したことで、その才能を開花させている選手は既に何人もいます。もう14戦こなして、兄貴には遠く及ばない迫力の戦いばかり重ねているのですから、そろそろ出向いてもいいはずです。今こそノックアウト・ダイナマイトに教えを乞う時なのです。

 どうせこんな記事は井上陣営の目に留まることもないでしょうが…笑

 ちなみに現在活躍しているボクサーで参考にするべきは、おそらくアルツール・ベテルビエフになります。比嘉くんも良いかもしれないけど、これまた少し体型が違うかな。


 とりあえず最低限やるべきなのは、現状の構えよりも軸を後ろに倒し、奥脚にしっかり体重を乗せ、その強靭な脚力で以って押し返しつつ、上体をダイナミックに振るイメージでパンチを放つということです。

 タッサーナ・サラパット戦の序盤なんかはそういう意味ではとても良かったんですけどね。あの試合もなぜか自然と兄貴のようなつま先に力が寄ったバランスの崩れやすい構えになっていってしまいました。

 とりあえず、モンスターの弟からモンスター2号へ進化する準備はすでに整っています。あれほど太い体幹を持つ選手が、こんなところで頭打ちになるわけがありません。

 同じB1タイプである筆者としても、今後に期待したいですね。