どうも、ミラノです。

 やっぱり長文記事書こうと思うと更新頻度上がらないんです。困ったものです。

 さて、トーマス・ハーンズは皆さんもちろんご存じでしょう。非常に長い手足から繰り出す無慈悲な攻撃から'Hitman'(殺し屋)の愛称を与えられた名ボクサーです。

 エマニュエル・スチュワードの指導を受け、非力なアウトボクサーだったアマチュア時代から一転、凄まじいオフェンスを身につけた彼は、飛ぶ鳥を落とす勢いで世界への道を駆け抜け、王座獲得後には数々のビッグファイトを繰り広げることとなります。

 同時に、顎の脆い選手でした。その象徴的な試合として、アイラン・バークレー戦は外せないでしょう。

 試合内容は、右一発をもらうまで圧倒的でした。3ラウンドの時点でバークレーは両目尻を切り、既に血だるまです。ハーンズの長いジャブと強烈な右カウンターがバークレーを屠るのも時間の問題でした。

 しかし3ラウンド残り1分を切ったところで、ダッキングしながら下がろうとした瞬間、バークレーの右が突然火を噴いたのです。

 魔法にかけられたかのようにハーンズは何もできなくなってしまいました。まさに不覚の一撃でした。

 どうしてハーンズは負けてしまったのでしょうか?




 これは第2戦のハイライトですが、バークレーは脇をしっかりと締めた前傾姿勢の構えが目につきますね。
 つまり、アイラン・バークレーはA1タイプです。
 頭を下げた状態で次々攻撃を繰り出すバークレーに、ハーンズは初戦の悪夢がチラつくのか、ロープ際で亀になってしまうシーンが目立ちます。
 


 こちらが第1戦のハイライトになりますね。
 16秒あたりから見られる前進しながらの左右ボディはAタイプ特有の攻撃手段で、この他にも前傾姿勢のままパンチを繰り出すシーンが目立つと思いますが、やはり一番の見どころは例の右でしょう。

スクリーンショット (285)
 前進しながらジャブを放ち、
スクリーンショット (286)
 ダックする方向を確認して、
スクリーンショット (289)
 上体を倒して足底、膝(内面)、みぞおち(内面)で形成されるA1の軸を整え
スクリーンショット (291)
 力を込めた両足から生み出したエネルギーを、左股関節から右肩にかけて対角線上で体幹を伸展させる要領で拳へ伝え、
スクリーンショット (292)
スクリーンショット (293)
 ハーンズの顎をぶち抜いたのでした。

 これがもしA2タイプなら、踏み込んだ方向へ突進したまま、右スイングはハーンズの頭上を虚しく通過してしまったことでしょう。
 A2は右股関節から右肩にかけて体幹を伸展させることで右拳に力を伝えます。これにより、自分が進んだ方向へそのまま攻撃が飛んでいきます。
 一方のA1は上で説明した通りに力を伝えるので、進んだ方向からややベクトルが逸れて攻撃が飛んでいくのです。
A1-A2

 前進しながらでも急激なベクトル変化にある程度対応することができ、また相手がよける前に強力な攻撃を与えられるというのがA1の強みではないでしょうか。

 逆にBタイプであれば、相手をモーションで誘導する必要があります。Aタイプと比べて初動が目立つためです。裏を返せば、よける方向さえ予測できれば、単純な攻撃パターンでも何度も命中させられるわけです。マイキーが典型的ですね。


 最近よく吹聴して回っているのが、「アフリカ系アメリカ人のボクシングはパラレルタイプが中心である」という話です。まあどちらかというとA2が多い印象ですが、もっと突き詰めれば「特定のタイプに偏る」というある種の文化があるということです。
 A1タイプの特性を知るにはもちろんA1の選手とスパーをするのが手っ取り早いわけですが、あいにくそういったボクサーが発掘されにくいのが(アフリカ系)アメリカ人のボクシング界というわけです。
 
 アイラン・バークレーは王座防衛を果たせなかった3階級制覇王者という奇妙なプロキャリアを歩んだ選手ですが、単にラッキーだったからと片付けるのも早計です。

 彼はアフリカ系アメリカ人のボクシング界という「A1ボクシング不毛の地」に突如として現れた、いわば突然変異体のようなボクサーだったのです。


 というわけで、ハーンズにとってアイラン・バークレーが地雷だったということにはちゃんとした科学的な根拠があったと主張する記事でした。


 あまり次回予告をするのは好きじゃないですが、多分次も似たような記事を書くんじゃないかなぁ。