BOKSADO備忘録

管理人(白井ミラノ)によるメモ書き置き場。

カテゴリ:ボクシングの4スタンス理論考察(旧記事) > A1タイプ【4スタンス理論】

こんにちは、ミラノです。

「世代じゃないけど」第二弾、今回も日本の選手です。というかたぶん次回も日本人です。

世の中、尋常じゃない体力を持つ人ってたまにいますよね。いつまでもパンチを打っているのに全く疲れる気配がない人。

今回はそういうボクサーです。



【ファイティング原田】


 兎にも角にも前へ、前へ。常に前傾姿勢、一度飛び込んだら止まらない。

 そんなファイティング原田はA1タイプとしての自身の特徴を存分に活かしているといえるでしょう。

 足底(つま先内側寄り)、膝、みぞおち前面を軸ポイントとしてつくられる彼の姿勢。皆さまのお体で試していただければ分かると思いますが、この基本的な姿勢は前傾を取ることがほとんどです。
 
 そしてそこから放たれるパンチは、一見手打ちに見えますがたいへん重みのある一発に仕上がっています。
 YouTubeに挙げた井上尚弥vsノニト・ドネア分析動画でも紹介しましたが、Aタイプは右を打つ時必ず左脚を、左を打つ時は必ず右脚を軸に用います。
 ファイティング原田のファイトスタイルを象徴する猛烈な左右連打も、軸を交互に使い分ける(=いつでも軸の入れ替えが可能なように前傾姿勢を保ち続ける)ことによって完成されているのです。

 Bタイプが体幹をなぞる様に軸が通るのに対し、Aタイプは体幹に対して斜めに軸が通ります。
A1RightHand
 これはA1タイプによる右ストレートの打法ですが、一見するとつんのめりそうですよね。そうです、これはA1の特徴でもあります。
 打ち終わりの隙を埋めるには、相手に密着するしかありません。A1は幸い前傾姿勢からコンパクトな連打を繰り出しやすい構造になっているため、ファイティング原田はブルファイターとして活躍することが出来たというわけです。

 往年の名ボクサーは、ただ単に根性が凄まじいだけではありません。ファイティング原田もまた、自分の体の使い方をよく理解していたファイターだったのです。

 今でも充分参考にできる選手だと思います。

 こんにちは、ミラノです。

 ウガス先生勝ちましたね~、それも文句なしに。
 サーマンも初回のダウンや10回にボディで下がったシーンがなければポイントで勝つことが出来たでしょうが、それが出来なかったのは4スタンス理論的にもある程度説明がつきそうです。


【サーマンがパッキャオに勝てなかった理由】
 A2タイプのサーマンは運動神経抜群で、パンチ力のあるアウトボクサーです。しかしA2タイプはそれゆえに序盤にペースをあっさり掌握しては少しずつ試合がダレて途中でコケるという試合展開に陥りがちです。

 特にサーマンはよく左右に動いて相手のプレスをかわそうとしますから、なおさら中盤以降にボディが効きやすいのですよね。また、左右に逃れる時も弧を描くというよりはカクカクした線を描くA2らしい傾向にあります。例えるならカービィのエアライドに登場したルインズスターみたいな感じです。伝わってください。


 当興行のアンダーに出場したマグサヨもA2ですが、下がり方がもったいないと指摘する方が結構いらっしゃいましたね。あれはむしろA2にありがちな動きなのです。そしてインサイドが苦手なので真っ直ぐ下がるのになかなか打ち返せない。
 だからこそA2は力強いジャブで跳ね返すか、メイウェザーのように半身の姿勢で巧みなボディワークを使っていなすかしなければならないわけです。
 サーマンはどちらの武器も充実していなかった。結果、スタミナはすっかり抜け落ちたけどパンチ力と一瞬のキレが健在のパッキャオには明確に敗北したのです。

 しかし、今回の相手はサーマンでもスペンスでもなく、ウガスでした。
 予想記事でも書きましたが、ウガスはB2タイプです。マルケスと同じです。
 パッキャオと言えばバレラ、モラレス、マルケスという錚々たるメキシカンと戦い抜いた実績がありますが、このうちマルケスには最後まで完勝することが出来ませんでした。バレラがB1、モラレスがA1であるのに対して、マルケスがB2だったからというのは大いにあると思います。

 バレラのレバーやモラレスの右ストレートより、ワンテンポ置いて伸びてくるマルケスの左フック、右ストレート、右ボラードは何倍もパッキャオにとって厄介でした。

 そして先日、パッキャオは同じB2であるウガスに敗れたのです。

 もちろんパッキャオは他のB2ファイターとも多く手を合わせ、そして勝利してきました。今回はそれを覆す要素がいくつも重なりました。

【ジャブ、体格、パッキャオのスタミナ不足、そしてB2であること】
 はい、上記のとおりです。ウガスが序盤でジャブの差し合いをある程度制した時点で、パッキャオはおびただしい発汗と共にペースを失いました。ジャブにジャブを被せるというパッキャオお得意の職人芸がこれほどまでに通用しなかったのは、ウガスが体格で大きく上回り、且つリードブローの伸びる選手であり、そしてB2タイプであるからです。

 ジャブで優位に立つことが多いのはクロスタイプ(A1/B2)だと僕は考えています。もちろんパラレルタイプ(A2/B1)でも巧みにジャブを使いこなす選手はいますが、クロスタイプ相手になると結構苦しくなりがちです。




 ドネア(A2)はナルバエス(A1)を倒せませんでしたが、前手の差し合いで明確に上回れなかったのも大きいと思います。リゴさん(A2)からは4ラウンドに左フックカウンターを決め、10ラウンドに左フックでダウンを奪えましたが、ナルバエス戦ではまともなクリーンヒットすら許してもらえませんでした。同じサウスポーでディフェンシブでもこれだけ差が出るので、タイプの違いは結構試合の流れに影響すると思います。

 で、ウガスはB2。パッキャオもA1なのでお互いリードブローが試合のカギを握る傾向にありますが、体格というアドバンテージとジャブにジャブで返す巧みな技術があったからこそ、ウガスは自分の思うように試合を組み立てることが出来たといえるでしょう。

 しかし、先日の予想記事ではジャブについて完全にスルーしてしまいました。この点でもパッキャオが上回るんじゃないかと思って言及しなかったので、これはもう完全に僕の予想が外れましたね。
 よく考えればパッキャオにとって不利なポイントが散見されるのに。体格差を的確に考慮したイメージは難しいものです。

 右ボラードはやっぱりよく当たりましたね。このパンチはパッキャオも大概狙われるのに慣れてるでしょうから、しっかりガードを上げて対処をしていましたが、体が伸びたところへ受け止めるので高確率で吹っ飛ばされました。マルケス戦とまんま同じパターン。

(9:58あたりから)

 ウガスのそれは猫背の傾向が強く、力が分散しがちなので効かせるような質のパンチではないですが、外から飛んでくるパンチの恐ろしさをよく知っているパッキャオにとって決して無視できるものではなかったはずです。
 パッキャオはフットワークがディフェンスなので、どっしり構えて巧みなボディワークを駆使してひらひら避けるのは身上ではありません。元から抱えていた問題を、彼は最後まで克服することが出来なかったといえるでしょう。


 得意の右ボディでパッキャオに踏み込みを躊躇させたのも大きいですね。これに関してはパッキャオがスタミナを気にしていたともとれますが。

【ウガス先生を称賛したい理由】
 この試合はきっとウガスの評価がうなぎ登りになるようなものではないでしょう。パッキャオは大概落ち目であり、代役だったこともありウガスは注目度の低い選手です。試合も普通に行われ、普通に終わり、普通に勝っただけです。

 でもね、なんという巡り合わせでしょうか。あれだけ期待されていたスペンスがまさか目の怪我で撤退を余儀なくされ、たまたま同じ興行での出場を予定してたところへお鉢が回り、短い準備期間でも自分の戦い方を確立し、そして勝利したのです。

 御年35、ここまで来るのに亡命、連敗という挫折、ポーター戦での議論を呼ぶ惜敗…あらゆる試練を乗り越え、ふと神様が落としていった運をガッチリつかんでみせた。

 これほどに痛快な人生もなかなかないでしょう。

 だから、僕はウガスを先生と呼ぶことにしたのです。

 試合が面白いとは言いません。でも僕は当分の間彼を推すことになりました。
 スペンスファンの皆さん、対戦よろしくお願いします。クロフォードファンの皆さん、対戦よろしくお願いします。
 終わりです。

ご無沙汰しております、ミラノです。

YouTubeに動画上げてみたり、boksadoにBoxRecIDを載せてみたり、試行錯誤をダラダラと繰り返しておりましたが、いい加減こっちもやらなきゃと思いまして…。

別に誰かからお金をもらってるわけじゃないので、更新は全て僕のやる気次第なんですよね。ほんとすんません()


さて、人は予想するのが大好きです。予想が外れるとがっくりきますし、当たるといい気分になれます。

なので、今週末に予定されているパッキャオvsウガスの予想をバッチリ当てて一円にもならない男のプライドを誇示してやりたいと思います。



【ヨルデニス・ウガスについて】


 まずはウガスから見ていきましょう。
 試合運びが堅実過ぎて評判がよろしくないウガスですが、選手としては非常に優秀です。覗き見るようなガードで堅い防御を築き、相手の攻撃に対し強い左右ボディで迎撃して体力を奪い、右ショート及び右ボラードで顔面を痛打するというのが彼の基本的な攻撃プロセスです。

 フィジカルも充実していて、ほとんどの試合において引いて戦うのは稀です。パッキャオ戦でも前に出るのはウガスでしょう。

 ただし、決定力には欠けます。思うに、ウガスはほとんど常に腰が浮いてしまっているのです。
 当サイトのブログを読み漁ったような方は既にご存じかと思いますが、B2タイプの特徴として奥足かかと外側、奥足側股関節、正面側首付け根を固定ポイントとして一直線上に揃えることで基本的な姿勢が完成する、というものがあります。

 ウガスはどうでしょう。頭部を前面に突き出す形で、つまり顎が上がった状態で構えるため、首付け根が引っ張られてしまっています。それゆえ、かかと—首付け根の直線上から股関節が抜けてしまっているのです。

 ここで同じウェルター級で最近話題のヴァージル・オルティス・ジュニアや、歴代ミドル級最強候補と言って差し支えないGGGのパフォーマンスを見てみましょう。






 どちらもボクサーというよりはファイターですが、しっかり顎を引く(というより、首を引く)ことで姿勢を完成させています。どんな選手にも言えることですが、美しい姿勢は決定力に繋がるのです。

 ウガスは基本的には迎撃に依存したファイトスタイルです。相手がジャブを打った時、素早くスウェーバックして右ショートを打ち返すのが得意ですが、これはスウェーを行うことによって姿勢が修正され、軸が完成するからです。

 相手がボディを効かされて後退してもなかなかラッシュを仕掛けられない原因が、この点に集約されているといっても過言ではありません。
 また、上の動画では8ラウンドに右アッパーが効いたのを見て猛ラッシュを仕掛けるシーンがありましたが、恐ろしいほどに的中率が低い。慣れていないのもあると思いますが、やはり姿勢が整っていないことに起因していると思います。


 もちろん、徹底したガードと的確なボディショット、そして強靭なフィジカルといった彼の武器は、これまでのほとんどの試合において欠点を補って余りあるものとして機能してきたことは事実です。
 しかし、基本的な姿勢において欠陥を抱えているこのボクシングで、パッキャオ戦において確実な勝利を掴めるのかは、甚だ疑問です。



【マニー・パッキャオについて】


 次に、皆さん大好きパッキャオについて。
 流石にフットワークの鈍化、ガスタンクの縮小が顕著ではありますが、サーマン戦では10ラウンドに土壇場でレバーを効かせるなど異様なまでの決定力は相変わらずです。

 サーマンはA2タイプで、正面を外されるのを苦手としています。この試合の4ラウンドまではパッキャオに左右関係なく回り込まれ続け、彼が失速するまでペースを奪われっぱなしでした。

 初回にダウンを奪ったワンツースリーはコット戦でも火を噴きましたが、このA1ならではの高速コンビネーションはウガスにも通用すると思います。コットやウガスといったB2のパンチは外回りの軌道になりやすく、到達が少し遅れがちです。コット同様高機能なバックギアに欠けるのであれば、尚更被弾する確率は高くなります。

 ただし、ウガスの右ショートカウンター、及び右ボラードも綺麗に当たる確率が高いです。B2オーソドックスによるこれらのパンチに苦しんできたのは、ほかでもないパッキャオだからです。



 永遠のライバルと言っても過言ではないパッキャオとマルケスですが、マルケスは繊細なフットワークに基づく絶妙な距離の調整でもって、また時に大胆に踏み込んで右を当てるB2ファイターです。戦い方は違えど、繰り出すパンチの軌道はウガスと似ています。

 パッキャオがダウンするとしたら、ジャブに対する右ショートか、反時計回りに逃れようとしたところへの右ボラードだと思います。



【予想:パッキャオ判定】

 勝つならパッキャオです。上述した通りウガスは顎が上がった状態で構える傾向にあり、ひとたびガードが緩むと危うさが急激に増します。連打の的中率の悪さも、反撃を受ける要因になりかねません。

 そしてボディによる迎撃と右ショート、右ボラードでどれだけ支配できるかと言われると…うーん、微妙!

 サーマン戦のように消耗の激しい試合展開になるとも予想しにくく、やはりパッキャオ有利に変わりはないのかなと思います。

 つまり、僕が応援しなければならないのはウガスです。


 というか、なんなら前にもこのブログでウガスについて取り上げてた覚えがあるんですよね。その時も辛口でしたが、今回も似たような感じになってしまいました。

 でもね、プロでは思うように躍動できずとも、ここまで頑張ってきた彼を応援せずにはいられないのです。

 欠点が何だと言うのでしょう。僕としては、応援するかどうかには大して影響しない要素です。



 今回はリハビリついでに予想記事を書いてみました。

 予想を書いたからには、もちろん感想と分析も記事にまとめたいと思っています。

 21日、両者及び興行に出場する全ての選手が万全の状態でリングに上がれることを願っています。

 こんにちは、あけましておめでとうございます。ミラノです。

 三が日もとっくに過ぎておりますが、2021年最初の記事ということで…。


 表題の通り、キックボクサーはA1タイプ向けの競技かもねってことを書いてみます。

 もちろんピックアップする選手はプロボクサーですが、今回は元キックボクサーに絞って紹介します。

🥊エドゥアルド・トロヤノフスキー🥊

 まずはロシアの鷲、トロヤノフスキーです。
 日本でもWBSSスーパーライト級トーナメントでキリル・レリクと対戦し、2016年には小原圭太選手の挑戦を受けたことでそれなりに馴染みがあるかもしれません。

 当初彼をB1と観ていましたが、先日観直してみて他のB1ファイターとは違いがあるように感じました。

 手足の長いボクサーでB1タイプといえば、当ブログでも取り上げた名選手、トーマス・ハーンズが代表的です。


 いやー、似てますよね。でも右ストレートの伸び方、膝の使い方は特に異なります。

 ハーンズの右はやや腰が沈むのに対し、トロヤノフスキーは左膝のある方へ向かってギュンと全身が伸び上がります。

 一発効かせた後のラッシュも、トロヤノフスキーは突っ込みながらラッシュをかけるのに対し、ハーンズは一定の距離を保ちながらフック、アッパーの乱れ打ちで相手を仕留めます。

 A1タイプの特徴はつま先内側を基点につま先、膝、みぞおちで軸を作り、対角線上の股関節と肩を連動させた体幹の伸展で運動することです。

 キックボクシングには詳しくないのですが、お国柄関係なく元キックボクサーのプロボクサーは多くがこの特徴を持っています。キックの「基本」にはA1の要素が色濃く詰まっているようです。

 念のため言っておきますと、4スタンス理論上で競技の得意不得意が現れるとは限りません。単にキックボクシングのジムで教わる「基本」の多くが、A1タイプの特性に準拠している可能性が高いだけです。

🥊ディリアン・ホワイト🥊

 お次はヘビー級のボディスナッチャー、ディリアン・ホワイトです。

 ドーピングしたしてないでかなりグレーな選手ですが、そこはひとつ置いといて。

 くねくねしていてどこか不格好と感じる方も多いことでしょう(A1の特性というよりホワイトの特性?)、膝が基本的に固定されており、重心が高いように見えますね。

 A1タイプは膝が固定ポイントであり、股関節を柔軟に動かしてボディワークを展開するのです。

 ジョシュアもグラついた左フックはモーションが小さく、GGGのように外側から叩きつけるというよりは、内側から突き抜けるように打ち抜くものです。
 Aタイプのリズムはコンパクトなのです。

🥊アムナット・ルエンロエン🥊

 最後はムエタイ経験者からピックアップしてみましょう。ムエタイとキックボクシングが異なる格闘技であることはもちろん把握しておりますが、ムエタイもまたA1タイプが非常に多い競技だと考えています。

 アムナット・ルエンロエンと聞いてあの憎たらしいファイトスタイルを思い出し、歯ぎしりしてしまう方は結構いらっしゃると思います。

 高度な距離感とキレのあるジャブ、巧みなクリンチワークで徹底的に塩漬けするファイトスタイルですが、長いリーチも相まってかなり伸びる隙のない攻撃も持ち味です。

 この選手も当初はB1と判別していましたが、基本的な姿勢がやや前傾であること、左右フックを振り回した時にうねるようなリズムがあることから、A1タイプへ訂正しました。
 パラレルタイプ(A2/B1)であれば体幹の真ん中を軸に連打を発動しますが、アムナットの場合はその中心線を挟むように通る二本の軸を交互に使って次のパンチへ繋げるのです。


 というわけで今回は元キックボクサー(元ムエタイ選手)のプロボクサーに焦点を絞り、4スタンス理論上その多くはA1タイプであることを紹介しました。

 ここ最近A1タイプを取り扱ってばかりですが、なんとなくマイブームがA1なんですよね。当ブログ管理者の林ミラノはB2タイプなのですが、A1が羨ましくて仕方ないのです。

 だって、伸びるんですよ?ギューンて力みなくストレートが伸びるんです。こんなに羨ましい特性がありますか?

 そういうことです。
 それではノシ

 超久々の更新申し訳ございません、ミラノです。

 実力は間違いなくある。しかしあと一歩のところで毎度うまくいかない。そんな選手はいつの時代も必ずいます。
 今回はそんな惜しい選手たちに着目してみた記事です。

🥊オーバ・カー🥊


 オーバ・カーと言えば、確かな実力がありながら当時のウェルター級を席巻していたデラホーヤ、トリニダード、クォーテイなどに敗北し、ついに世界タイトルを掴めなかった選手ですね。

 現在に至るまで広く浸透しているアメリカンスタイルというのはA2かB1に適したボクシングであると以前から主張している僕ですが、オーバ・カーはどちらにも当てはまらない「クロスタイプ」、その中のA1タイプの選手でした。
 54勝31KOという戦績は、彼が決してパワーレスではなかったことを証明していると言えましょう。しかしクロスタイプの選手によるパンチのベクトルはパラレルタイプのそれとは異なる点が多く、とりわけミット打ち練習で齟齬が生まれやすいものと思われます。
 中途半端な位置で動きを止めてしまったり、連打が出そうなタイミングで攻撃が続かないシーンはこのアイク・クォーテイ戦でも多く見られるかと思います。

 体幹が伸びきるタイミングで最もパワーを発揮するA1タイプの特性は、ボクシングの伝統に真っ向から反発するものです。マニー・パッキャオはA1サウスポー最強のボクサーですが、あんなにハチャメチャなボクシングというのはセオリーになかったわけです。

 限界まで特性を活かせばたとい3階級上でも圧勝できます!(ただしマルケス戦のようにはっきりと弱点も現れる)
 オーバ・カーにはボクシングの基礎がしっかり備わっていました。しかし残念ながら、A1ボクシングへの昇華がもたらされることはなかったのでした。


🥊ジュリアン・ウィリアムス🥊



 ジュリアン・ウィリアムスは現在も活躍しているボクサーですね。下馬評を覆しジャレット・ハードに勝利、スーパーウェルター級統一チャンピオンになったのも束の間、地元で迎えた初防衛戦ではドミニカ共和国から来たジェイソン・ロサリオにTKO負けを喫し、8か月で王座を手放してしまいました。

 勤勉実直な性格なのがよく伝わる真面目なボクシングでジャーモル・チャーロも手こずらせた彼ですが、これほど「何かが足りない」と観てる側に思わせるボクサーもあまりいないのではないでしょうか。
 彼もA1タイプです。Gallimore戦を観ると特に感じることですが、右足を後ろへ引いて下がるシーンが目立ちますよね。右を振った時に身体が流れて相手の反撃を許してしまうことを常に懸念している証拠と言えます。
 逆にインサイドになるとA1特有の前傾姿勢が機能してイニシアチブを簡単に握ることができます。ジャレット・ハード戦ではハード自身が過度な減量によって打たれ脆くなっていた説もありますが、見事2ラウンドにダウンを奪い、その後もインファイトで主導権を握り続け、見事勝利したのでした。

 A1でファイタータイプの実力者は結構いらっしゃって、代表的なのがローマン・ゴンサレスです。彼のコンビネーションはもはや芸術と表現しても良いくらいですが、ミドルレンジ以内の距離で常にA1の「強い」姿勢をキープしているからこそ実現するコンビネーションでもあるのです。

 ほら、ただ正面から殴り続けるのではなくて、多彩な角度から攻め込んでいますでしょう?この自然なポジションの変化がA1の特性をうまく活かし、ロマゴンのスウィート・サイエンスを実現させているのです。


🥊トニー・ハリソン🥊



 最後はトニー・ハリソンです。
 彼も惜しいボクサーです。ジャレット・ハードには奮闘及ばず9回TKO負け、チャーロ第1戦前のイシェ・スミス戦でも判定が割れるなど、この選手もまた実力があるのにどこか足りない。
 せっかくパンチが届く距離にいるのに、なぜか手を出さないのです。おかしいですよね?

 やっぱり彼もA1タイプです。オーバ・カーと同様パワーパンチは鋭く、チャーロとて油断のできない威力です。しかし、どうも相手と正対する時間が長い。クロスタイプの選手ほど左右のベクトルの変化が重要なのですが、ハリソンの戦い方は完全にパラレルタイプです。

 自分の特性を活かしきれていない。そして、それをアメリカの、とりわけ黒人のボクシングコミュニティに浸透しているA2/B1のためのボクシングは教えてくれないのです…。


 このように、確かな素質がありながら、4スタンス理論上タイプが合わないばっかりにボクシングの幅を狭めてしまうアメリカンスタイルでもって、真にその実力を花開かせることができないでいる(いた)ボクサーたちが、海の向こう側にはいらっしゃるようです。


 念のために言っておきますが、決してA1タイプがボクシングに向いていないわけではないです。
 一つ言えるのは、練習環境は大事だということです。

 そして、顎の脆さに関しては基本的にどうすることもできないということです…。

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